元東大法学部生が交通史について学ぶ(序)

こんにちは。

書かずにはいられなくなってしまった人です。

本稿では、交通の歴史についてを諸々の文献を読み進めることでまとめ、今後のアジアの交通を考えていきたいと思います。

まずは、本稿の目的、射程と方法論についてまとめます。

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「交通」を本稿の主題に取り上げた理由は、下記のとおりである。

交通は、通信と密接な関係を持つ。そして交通と通信は一体となって人及びモノの輸送を担うのだが、この交通=通信というひとつの機能は、物理的なハードウェアと、ハードウェアを制御するインプットとアウトプットの関係を規定するソフトウェア、このハード=ソフトに前方の機能からきたインプットを与え、またアウトプットを後続の機能に受け渡す情報伝達機構、これら3つを統制する組織化された人間の集団4要素からなる。
ハードウェア、ソフトウェア、情報伝達機構及び組織化された人間集団の4要素は、交通=通信の機能だけでなく、生産販売・軍事・警察・行政等の機能を駆動させているものである。機能の違いは、主としてソフトウェア及び人間集団の組織のありようの違いに反映されるが、しかしこれら4要素から成っているいることは間違いない。交通のありようの勉強の成果には汎用性が有ると見込まれる。

アジアの交通のあるべきを念頭に交通史を学ぶことは、アジアにとって2つの意義がある。
1つ目は、ハードウェア、ソフトウェア、情報伝達機構及び組織化された人間集団の有機体を使いこなせていない国を、どう日本や中国、韓国や台湾にキャッチアップさせるかの指針を得ることである。
2つ目は、日本、中国、韓国、台湾ないしシンガポールといった先進国が、来るべきIoT時代の交通輸送システムのあるべき姿を探る基礎的な作業と成すことである。
諸々のIoTの諸分野の中にあって、最も本稿の主題に関連すると思われるのはスマートシティの概念だ。

若干長くなるが、三宅陽一郎・森川幸人著『絵でわかる人工知能』42ページから43ページを引用しよう。
「スマートシティは街全体を知能化することで、より機能的、自立的、安全な街を実現しようとする試みです。…最近では、…街全体に張り巡らされたセンサー群から集めた情報を基に街全体を監視し、ロボットや端末を通じてセキュリティやサービスを展開する、知性(インテリジェンス)を持った街を指すようになっています。スマートシティが目指すのは、街全体の知能化です。あらゆる場所が監視され、そこに力を行使するロボットやドローン、人がいて、安全なサービスが受けられるような世界が目指されています。」
スマートシティは、具体的には下記のように整備されていくという。
「街全体のインフラがそのような方向に変化するのには段階的な発展が必要です。部分的には自動運転などの道路上の知的システム、監視ロボットの導入、過去の統計データに基づく犯罪予測などが進んでいます。その街のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)が、その町に導入した人工知能システムの質に大きく影響される時代がやがて来るでしょう。」

上記を読むと、一見20世紀以前の交通システムとは全く異なるような印象を持たれるかもしれないが、よくよく見ていけば、上記のスマートシティ像もハードウェア、ソフトウェア、情報伝達機構及び組織化された人間集団の4要素で説明がつくと考える。
第一に、IoT時代にあってもセンサー、ロボット、端末等はハードウェアとみなしうる。
第二に、スマートシティシステム全体は、システム外部からの何らかのインプットを基にアウトプットを出すという点でソフトウェアを持つ。ただ、IoT時代のソフトウェアの特徴は、スマートシティというシステムの中の各種サブシステム間のインプット=アウトプットの網の目が極めて複雑になること、そしてインプットとアウトプットとの関係を規定するロジックの一部が、人間ではなく人工知能によって作られるであろうことである。
第三に、情報伝達機構はより重要になる。むしろ注意しべきは、第二点目で指摘したように、インプットからアウトプットに至るまでのロジックの複雑さと、人工知能という新技術の導入の2点によって、情報伝達機能はより脆弱になるという点である。
第四に、人間は依然としてハードウェア・ソフトウェア・情報伝達機構をコントロールする存在としてあり続ける。
三宅・森川の202ページを引用しよう。
「殆どの人工知能は「頑固な専門家」です。与えられた問題の枠の中では、恐るべき優秀さで休まず作業しますが、それとよく似たちょっと違うことでさえ、指一本動かしてくれません。人工知能には人間のような比喩(メタファー)の能力がないのです。人間の脳は有限ですが、比喩の能力によって物事の類似性を捉え、一つの問題のソリューションを、他の問題に広げていきます。部屋の掃除ができる人は仕事の片付け方も上手いですし、料理が得意な人は科学実験も得意かもしれません。」
凡そ知性とは、ある具体的な事象の解決経験から一般的な原則を導き、それを他の具体的事象の解決に応用する点にその神髄があり、その領分に人工知能が及ばないのだとすれば、人間がシステムの運用主体であり続けることは疑う余地がない。

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本稿の射程は、下記の通りである。
現代の交通システムは、ハードウェア・ソフトウェア・情報伝達機構・組織化された人間の4要素からなると考えるが、この4要素が明らかに分化するのは鉄道以降と考えるので、歴史的なスコープはイギリスにおける蒸気機関車の発明以降とする。必要に応じて鉄道以前の交通システムにも触れることにする。
また、交通システムの輸送対象は、人及びモノ全てを含む。
交通システムの使用用途も、私用、商用、軍用、行政上の必要等を包括する。
取り上げる交通システムの地域は限定しない。但し、次の段で述べるようにその事例は全てアジアの望ましい交通システムの在り方の検討の素材とされる。
また、交通は通信ときわめて密接に関係があると考えられるため、論の展開によっては主題が「鉄道史」ではなく「鉄道=通信史」となるかもしれない。
加えて、交通の一要素であるハードウェアについては、それを支える技術的発展を必要とするので、当然本稿には技術史的要素も含まtれることになるだろう。

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本稿は、主として2次文献群の整理・解釈によって望ましいアジアの交通を模索するものである。
1次文献へのアクセスは、必要に応じて最小限度に抑えられるだろう。
これは、本稿の筆者である私が、東京大学法学部において、交通史を扱うようなディシプリン教育を受けていないというネガティブな理由と、既存のディシプリンにとらわれずに自由にあるべき将来のアジアの交通を考えたいというポジティブな理由とがある。
私は、アカデミアに友人を複数持つものだが、私自身は実業界(ITコンサルティング業界)に身を置くものである。
従って、図らずも職場でのトラブルに起因する心身不調により与えられた休暇中に、まとまった時間をもってこのような主題に取り組み、その成果を今後の私の職業生活に活かすならば、本稿で構想されることになるアジアの望ましい交通システムの実現が、わずかではあっても近づくことになる。

 

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まずは、小池 滋・和久田 康雄著、『都市交通の世界史―出現するメトロポリスとバス・鉄道網の拡大』を読むことにします。